day 32

この「トリスの落書き」は、DeadRunningのAシナリオ(街からの脱出)~Bシナリオ(船旅)の間の7日間を埋めるSSです。
物語の始まり~Aシナリオプレイ開始に至る「老医師の日誌」ともども、ゲームプレイのエッセンス程度にお楽しみいただければ幸いです。

・老医師の日誌(day 1 ~ day 7)
・トリスの落書き(day 29 ~ day 35)

 

 
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サム たんけん たのしいね。
いちばんうえの へりぽと たかいたかい。 きんきゅう って なになに。

かくへき すごいの。おおきなかべ ぎーっって ごーって うごくの。
いやな人たち はいれないの。 パパは ちゃんと はいれるよね。

あっちもこっちも こうじ。 ゆか なかったよ。 ふわふわすべりだい。
もういっかい おねがいしたけど うえにはいけないの。
また こんど だね サム。

すべすべ つるつる だいほーる。
お片付け もうちょっと。 かけっこ もうちょっと。

ゴホゴホする。 ママとかえろね サム。

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そもそも彼女は子供が好きではなかった。
隣でうれしそうに手をつないでいる「娘」は夫の連れ子ではあるが、それは大した問題ではない。
むしろ、生む気の無かった彼女にはちょうどよかったのかもしれない。
生まれつきの疾患持ち、それにあの汚らしい犬。手がかかって仕方ない。

夫は診療所に薬を取りに行ったまま戻らない。街は「奴ら」に覆いつくされたし、ここはもう船上、絶望的だ。
…いや、夫は救助隊に救われたのではないか?街に残っていれば夫と一緒に助かったのではないか?そんな考えが頭から離れずイライラしていた。

だけど今は違う。

少し希望が出てきた。

最初は胡散臭い話かと思ったが、このとおり娘は元気になった。
だったら、話を信じてもいいのではないか?
夫には申し訳なく思うが、自分とこの子二人だけでやっていけるはずがない。
誰だってこうした。当然のことだと思う。この子もそのほうが幸せだろう。

少なくともこの船は安全だ。
「奴ら」は居ないし、乗り込めないように改造されていると聞いた。いざとなれば隔壁で区画を遮断して隔離できるらしい。
その時が来ればヘリポートに行けばいい。その後のことも約束してくれた。

「ママーっ、はやくー帰ろー」
いつの間にか立ち止まっていた。つないだ手を引いて自分を呼ぶ「娘」を見て、彼女は微笑んだ。

 

 

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