day 6

(xx月27日)
状況は・・・今がどういう状況なのか言葉に出来ない。説明しきれない。分からない。
いや、おそらくはかなり悪い。先ほどまで娘と「工作」をしていて、もう日が昇る時間なのに少しも眠れていない。
娘の入れてくれたコーヒーはすっかり冷めている。
不恰好に板付けされた窓から差し込む太陽の光は、世界が平和に戻ったような錯覚を・・・それともこれは診察に疲れた私が見ている夢なのか?
こんなときだというのに我が娘の発想と応用能力が誇らしい。昔、狩猟罠や外灯を教えながら作った頃を思い出す。ダメな親父だ。
たまたま主要な素材はあったものの、あり合せでよくもまあ作り上げたものだ。
(インクの汚れ)
ドンッと壁から鈍い音。知れず緩んでいた歯をかみ締める。思わず投げつけてしまった。
物音に、孫が走ってきた。手にはロッカーから出したと思われるモップ。傾いたヘルメットが重そうだ。
「大丈夫だよ」と告げると彼は勇ましくモップを掲げて応える。モップは一昨昨日エドに貰ったシールで装飾されている。
・・・その重い鈍器は、もう彼のものらしい。よろけてる。
その姿に少し安堵する。
ここへ来るにはみんなの協力が必須だった。
昼前に院内に現れだした「奴ら」は・・・最初はあのナースたちだったように思う。それともカルロス?
一緒に患者たちの間を回っていて異変に気が付いたサラ。
子供たちのことを思い出し作業小屋で向かおうとする娘。
既に奴らに支配されたロビーで、得物も無しに躍り出るチャーリー。
襲い掛かった「奴ら」に、とっさに投げたハンマーが当たってくれた。
チャーリーが西棟に「奴ら」をひきつけ、私たちは事務室横の扉から内庭へ。
小屋に飛び込むと同時に扉を閉める。
安堵した直後、激しく扉を叩かれて驚いたが・・・チャーリーだった。
今ではすっかり寡黙で大人しい男になったが、かつてを思い出させるフットワークだった。
逞しいな。病気で倒れるところが想像できん。
私も若い頃なら・・・気弱に思えたサラも芯は強そうだ。
いや、そんなことより、「奴ら」は肉体的に頑強と言うわけでもないらしい。銃なら簡単に損傷させられる・・・数を考えたら現実的ではないが。
また、対処に当たっては初期症状を見逃してはならない。
充血、発熱、発汗、咳など新型インフルエンザに似ているが、病気による消耗とは少し違う・・・そう、虚ろさがある。
そうだ、忘れないうちに。
メモ
・取り扱い注意
 ビルが間違えた荷が思わぬところで役に立った。
ただし、回路は手動での着火を必要とする。所詮即興品か。
薬品量が少し不安。相手が相手なので多めだ。
・作業小屋は安全?
 内庭を通った先。少し距離が離れているので奴らもあまりやってこない。
 娘たちの買ってきた食糧、運び込んでおいた燃料やバッテリといった備蓄物。工具や資材も多い。
壁に飾っていた銃はまだ使えそうだが弾薬がほとんどない。
ここは通信手段が無い。
センターの連中が居ないのに歯噛みしたが、ひょっとしてシティでの演習と言うのは?
人数は孫たちを入れて6人。備蓄分を合わせてもあまり持たないかもしれん。
孫が呼びに来た。食事交代。
彼女の顔色は少し悪い・・・が健康だ。体力も十分ある。
助けてくれる誰かが居ないなら、私がなんとかしなければならない、私が。
 

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