day 7

日誌はそこで終わっていた。
何年も使われていたのだろう…端の方は擦り切れている。
表紙の文字をなぞっているとあの時の父親の姿が思い出す。
「こいつは…」
ロビーに出た私たちを絶句させたのは患者たち…ではなく「奴ら」だった。待合所は満員御礼、かなりの数だ。
舌打ちした父はチャーリーと向き合って何か話している。
私は子供たちをすっかり懐いたサラに預けると、テーブルの影に沿って進む。
「…チャーリー、そいつをくれ」
私が来るのを見かけた父は柱に隠れるように立ち上がり、不意に私に手を伸ばす。
いかつい手の、でも優しく頬をなでる感触…突如、私は背後に突き飛ばされる。
「ここは俺に任せて先に行けーっ!
 さあ、こっちだ!かかって来い、化け物ども!!」
父は、あの箱を持って駆け出す。片手にはチャーリーの持っていたショットガン。
止めようとしたが、いつの間にかチャーリーが私の腕を掴んで放さない。
「父さんが!!止めないと!!」
子供たちを抱きとめているサラも悲しそうに首を振るばかり。
父はショットガンで「奴ら」をなぎ払っている。
…話にならない。多すぎる。
二つ目の集団を吹き飛ばしたところでショットガンは放り投げ、脇にあったポットを振り回す。
私は息子の手を取り、懸命に廊下を走る…ロビーは遠ざかっていく。
…西棟の端の扉をくぐるとき、もう一度振り返る。
父が、
二人で作った、
あの箱を…
「奴ら」が群がる!!
もう突き出された手と、あの箱しか見えない。
扉を抜け、駐車場に差し掛かる頃、その小さな診療所は住民に奉仕する人生を終えた。
私の身体はふわりと浮き、続いて重い痛み。
…気が付いたとき、私は駐車場脇の茂みの中に倒れていた。
チャーリーも、サラも、そして子供たちの姿もない。叫びそうになる衝動を抑え、慎重に私は立ち上がった。
我に返ると、目の前にコップが差し出されていた。
「大丈夫?」
読みおえるのを待っていてくれたのだろうか?
「ええ…日誌、ありがとう」
お礼を言ってコップを受け取る
あのあと私は街の一角にある(施設)に駆けこんだ。
生きのびた住民が集まり、外部から助けを待ちつつ「奴ら」から逃れる手段を探す「拠点」になっている。
希望が無く押し込められた生活は人々から生気を奪っていく。「奴ら」のようになる。
私のただ1つの希望。
子供たちは無事だろうか?
診療所のことを聞いてみたが首を振るばかりだった。街のいくつかの施設は真っ先に「奴ら」に塗りつぶされたという。
父の診療所はそのうちの1つ。希望は少ない。いや、これは私の願望…もはや妄執にすぎないかもしれない。
作業小屋のように、診療所には外部の人間が知らないスペースがある。
だから、父も子供たちも、きっと助けを待っている。
私の父も、私の子供たちも、きっと、きっと、諦めない。
私も諦めない。「奴ら」を振り払い、何度でも探しに行こう。
これが私の「使命」になった。
 
 

Print Friendly, PDF & Email
タイトルとURLをコピーしました